安易に債務免除(債権放棄)を勧めていないか?

2022年12月12日税務

同族会社では、同族株主からの借入がある会社も多いと思います。

金融機関から借りるよりも速く・簡単に借りられますし、利息を払う必要もありません。

コロナ禍等により経営が悪化した場合に、当該借入金を債務免除してもらうようにアドバイスをする税理士もいると思います。

また、相続対策としても、会社への貸付金の放棄を勧めることもあるでしょう。

安易な債務免除(債権放棄)はリスクを伴うケースがあります。

贈与税の対象となる可能性

相続税法第9条のみなし贈与のリスクがあります。

同族会社の株主としてA(父)とB(Aの息子)がいたとしましょう。

Aが会社に対する貸付金1,000万円を放棄します。
その結果会社としては、債務免除益1,000万円が計上されることになります。

すると、同じく同族会社株主のBとしては、会社の価値が増加したことになり、Bの所有する同族会社の株価が上昇することになります。

この上昇分に対して贈与税の課税対象となる可能性があるのです。
AからBへ贈与が行われたものとみなされることになります。

根拠となる相続税法基本通達9-2を抜粋して記載しておきます。

相続税法基本通達9-2 株式又は出資の価額が増加した場合

同族会社の株式又は出資の価額が増加したときにおいては、増加した部分に相当する金額を、次に掲げる者から贈与によって取得したものとして取り扱うものとする。

(3)対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合  当該債務の免除、引受け又は弁済をした者

国税庁HP

債務超過の会社では問題にならない可能性もある

上記のみなし贈与に該当し、贈与税の課税対象となる場合は、債務免除によって株価が上昇する場合です。

債務超過の会社等であれば、債務免除を行ったとしても、株価が0円→0円と上昇しないこともあります。
そういった場合であれば、債務免除を行っても贈与税の問題は発生しないことになります。

しかしながら、債務超過の会社であっても、以下のようなケースによって、相続税評価額で株価が0円でない場合はリスクを検討する必要があります。
・土地を保有しており、土地の含み益がある場合
・株式等の有価証券等を保有しており、有価証券等の含み益がある場合
・貸借対照表上計上されていない、全損保険の解約返戻金がある場合

これらのケースは、貸借対照表上は債務超過であったとしても、相続税評価額で引き直した場合、含み益等により株価がついてしまうことがあります。

その場合は、債務超過の会社であっても、みなし贈与に該当する可能性があるので、相続税評価額による株価については検討した上で判断しましょう。

同族会社関連の書籍を1冊持っておくべき

我々税理士のクライアントとして多数を占める中小企業は、ほとんどが同族会社です。

同族会社については様々な論点が存在しており、時として税務リスクも高くなります。

同族会社の税務問題については、1冊書籍が手元にある方が安心です。
私もハンドブック的に気になることがあった場合見るようにしています。

オーナーと同族会社間の税務」は法人成りの際の基本論点から、DES等の資本取引や事業承継税制等による自社株式の承継の論点、解散・清算の際の手続等、同族会社の論点を網羅的に取り扱っています。

例題で具体的な数字を代入して事例の紹介をしてくれているので、実務のイメージも非常に湧きやすいです。



同族会社は論点が多岐に渡る分そのリスクもありますが、論点を踏まえた上で提案できることも多々あります。

クライアントへのサービス向上のため、一通り論点を頭に入れておきましょう!